ハーマンモデルをビジネスで活用するための基本と歴史のキャッチアップ

ハーマンモデルの基礎と歴史

現代のビジネスの場では、一人ひとりの考え方や働き方の違いを知ることがチームの仕事をスムーズにし、良いコミュニケーションを生み出し、キャリアを築くために大切です。

そのために紹介したいのが「ハーマンモデル」というツールです。ハーマンモデルは、さまざまな考え方を分かりやすく整理して教えてくれるため、ビジネスマンにも大いに役立ちます。

本記事ではハーマンモデルの基本的な考え方やその背景、理論、そして実際の活用事例を説明します。また、仕事のやり方やキャリアをどのように改善できるかという具体的なアイデアもご紹介いたします。

この記事を通して、ハーマンモデルを理解し、自身の強みや課題を見つけ、より充実したビジネスライフを送るためのヒントになれば幸いです。

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ハーマンモデルの基本と要素

ハーマンモデルとは、脳の働きを4つのグループに分け、それぞれのグループがどんな考え方をしやすいかを説明する理論で、ロジャー・スペリーの「右脳・左脳モデル」と、ポール・マクリーンの「三位一体型脳モデル」という2つの神経科学の理論を組み合わせて作られました。

まず、ロジャー・スペリーは、右の脳を「イメージ脳」、左の脳を「言葉を使う脳」として、それぞれの役割が異なると考えました。

また、ポール・マクリーンは、脳が昔の「爬虫類の脳」、感情や本能にかかわる部分である「辺縁系」、そして新しい部分で事実や理論を考える「大脳新皮質」という3つの段階でできていると説明されました。

ネッド・ハーマンは、これらの考え方を合わせ、脳を左右に分けたあとに、大脳新皮質と辺縁皮質にさらに分け、以下の4つの象限(グループ)に分類しました。

【A象限(分析的思考)】
・左大脳新皮質に対応
・論理的・分析的で、データや数字に基づいて意思決定を行う

【B象限(順序的思考)】
・左辺縁皮質に対応
・組織的で計画的、細部にこだわりながら物事を進める

【C象限(感情的思考)】
・右辺縁皮質に対応
・感情や人間関係を重視し、共感や調和を大切にする

【D象限(全体的思考)】
・右大脳新皮質に対応
・直感的で創造的、新しいアイデアや可能性を追求する

さらに、ハーマンモデルでは「脳優勢度」という考え方があります。

これは各個人がどのグループの考え方を得意としているかを示すもので、ハーマン脳優勢度調査(HBDI)というツールを使って測定されます。これにより自己理解が深まり、チーム内でのコミュニケーションや協力をより良くするためのヒントにもなります。

ハーマンモデルは論理的な思考だけでなく、感情や本能といった側面も含め、脳の多面的な働きを4つに分けて考えることで、各思考スタイルの特徴をはっきりと理解し、具体的な行動やコミュニケーションに活かしやすくする理論なのです。

ハーマンモデルが生まれた時代

ハーマンモデルは、1977年ごろに提唱されました。1970年代は経済成長の鈍化や、社会が多様化が進み始め、企業は効率よく仕事をする方法や新しいアイデアで組織を動かす方法を探していました。

一方心理学では人それぞれの性格や能力を理解し、会社やチームを良くするための研究が盛んになってきました。

さらに経営学でも、チームで協力する方法やリーダーの大切さが見直され始めていたのです。

こうした背景から個人の考え方の違いに注目し、それを企業の運営や人材の育成に活かすためのハーマンモデルが時代のニーズにぴったりだと注目されました。

特に会社内でのコミュニケーションの問題や、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すための配置、そしてチーム作りが重要視されるようになったことが、ハーマンモデルを作るきっかけになったと考えられます。

また、当時は心理測定ツールが企業での人材評価や能力開発に使われ始めたことも、ハーマンモデルのような思考の特性を測るツールが登場する後押しになったと考えられます。

ネッド・ハーマンの貢献

ハーマンモデルの主要な提唱者、ネッド・ハーマンは、ゼネラル・エレクトリック(GE)社の能力開発部門の責任者として、長年にわたり人材育成と組織開発に携わりました。

ハーマンは、自身の職務経験を通じて、人々の思考スタイルや学習方法には顕著な違いがあることを認識し、それを体系的に理解するためのモデルを開発する必要性を感じていました。

彼の貢献は、複雑な神経科学の理論を、ビジネスの現場で応用可能な実践的なツールへと転換した点にあります。  

ハーマンは、右脳・左脳モデルと三位一体型脳モデルを統合し、「全脳モデル(Whole Brain Model)」という独自の理論を提唱しました。

ハーマンの功績は、単に理論を提唱するだけでなく、それを具体的な測定ツールとして実現し、多くのビジネスパーソンが自己理解を深め、組織におけるコミュニケーションやチームワークを改善するための道を開いたことにあります。  

発展と応用

ハーマンモデルは発表以降、その有用性が広く認識され様々な分野で発展・応用されてきました。

  • ビジネス領域では
  • リーダーシップ開発
  • チームビルディング
  • コミュニケーション改善
  • 問題解決
  • 意思決定

など、多岐にわたる目的で活用されています。

例えばチームのメンバーがそれぞれの思考特性を理解することで、互いの強みを活かし弱みを補完し合う、より効果的なチーム運営が可能になります。

また、リーダーシップ研修では、リーダー自身の思考特性を認識するだけでなくチームメンバーの思考特性を理解し、それぞれのニーズに合わせたコミュニケーションや指導を行うためのツールとして活用されています 。  

さらに、ハーマンモデルはマーケティングやセールスの分野にも応用されています。顧客の思考特性を理解することで、より効果的なコミュニケーションやプレゼンテーションが可能になり、顧客満足度の向上や成約率の向上に貢献するとされています。

教育分野では、学習者の思考特性に合わせた指導方法の開発や、チーム学習における役割分担などに活用されています。HBDIは世界中で100万人以上に実施されており、IBM、インテル、P&G、コカコーラ、キヤノン、資生堂など、多くのグローバル企業で採用されていることからも、その有効性が伺えます。また、50を超える研究論文でその妥当性と効果が実証されている ことも、ハーマンモデルの信頼性を裏付けています。  

ハーマンモデルをビジネスに活かす

ハーマンモデルは、ビジネスパーソンが自分の働き方やキャリアを考えるときに、具体的なメリットや活用方法をたくさん提供してくれます。

まず、HBDIを使って自分の思考の特徴を知ることで、どんな仕事やタスクにやる気が出るのか、どんな環境で実力を発揮しやすいのかを客観的に把握できるようになります。たとえば、分析的な考え方が得意な人は、データ分析や戦略の立案など、論理的な思考が求められる仕事に向いているかもしれません。一方、対人関係を大事にするタイプの人は、チームワークが重視される仕事や、顧客とのコミュニケーションが大切な仕事で活躍する可能性が高いでしょう。

また、自分の思考の特徴を理解することは、キャリアプランを立てる上でも非常に役立ちます。自分の強みを活かせる職種や業界を選んだり、足りないスキルを意識して磨いたりすることで、より充実したキャリアを築くことができるのです。さらに、チームで働く際には、同僚や上司の思考の特徴を把握することで、スムーズなコミュニケーションが実現し、良い協力関係を築く助けにもなります。たとえば、論理的な考え方を好む相手には結論から話し、計画的な考え方が得意な相手には順序立てて説明するなど、相手に合わせたコミュニケーションを心がければ、誤解を減らし、効果的に意思を伝えられるでしょう。

さらに、チーム内に多様な思考の特徴を持つメンバーがいることを認識し、それぞれの強みを活かせるように役割分担を工夫することで、チーム全体のパフォーマンス向上につながると考えられます。

ハーマンモデルの批判と類似モデルとの比較

ハーマンモデルは広く使われている一方で、いくつかの批判や他の類似モデルとの比較もされています。批判点としては、脳の働きをあまりにも単純化してしまっている可能性や、個人の思考の特徴を4つのカテゴリーに決め打ちしてしまうリスクが指摘されます。また、HBDIの質問内容には、文化的な偏り(ある文化に偏った考え方が反映されること)が含まれている可能性もあると考えられるのです。

類似モデルとしては、マイヤーズ・ブリッグス・タイプ指標(MBTI)、DISCアセスメント、コルブの学習スタイル理論などが挙げられます。MBTIは、個人の性格を16のタイプに分類し、自己理解やチームビルディングに役立てるツールです。DISCアセスメントは、個人の行動の特徴を「主導」「影響」「安定」「慎重」の4つに分け、相手とのコミュニケーションスタイルを理解するのに役立ちます。さらに、コルブの学習スタイル理論は、実際の経験を通じてどのように学ぶかという、個人の学習の違いに注目したモデルです。

これらのモデルと比較すると、ハーマンモデルは脳科学の知見をより直接的に取り入れている点が特徴です。また、ハーマンモデルは性格や行動だけでなく、思考の好みに焦点を当てるため、MBTIやDISCとは違った視点から個人の理解を深めることができるのです。

モデル主な焦点次元/タイプ数主な評価方法強み弱みビジネスパーソンへの関連性
ハーマンモデル(HBDI)思考の好み4象限質問形式の調査脳科学に基づいた理論、具体的な思考特性の理解、チームにおける役割分担に有用単純化の可能性、文化的なバイアス自己理解、チームコミュニケーション改善、リーダーシップ開発、キャリアプランニング
マイヤーズ・ブリッグス・タイプ指標(MBTI)性格特性16タイプ質問形式の調査自己理解、人間関係の理解、キャリア選択行動予測の限界、状況による変化を捉えにくい自己理解、チームビルディング、コミュニケーション改善
DISCアセスメント行動特性4タイプ自己評価、他者評価コミュニケーションスタイルの理解、チームワークの向上行動の表面的な理解にとどまる可能性コミュニケーション改善、チームワーク向上、リーダーシップ開発
コルブの学習スタイル理論経験学習における学習スタイル4タイプ自己評価学習方法の理解、教育研修への応用状況による学習スタイルの変化を捉えにくい個人の学習方法の理解、自己啓発

まとめ

今回は、ハーマンモデルの歴史、理論的背景、応用例、そしてビジネスパーソンにとっての意義について解説してきました。

ハーマンモデルは、個人が持つ独自の思考の好み(どんな考え方をしやすいか)を理解するための強力なツールで、自己理解を深めるだけでなく他者とのコミュニケーションを円滑にする効果も期待できます。

自分の思考スタイルを把握しその強みを活かすとともに、異なる考え方を持つ人々と協力すれば、ビジネスの現場でより効率的に働き、充実したキャリアを築くことが可能です。

今日の複雑なビジネス環境では、さまざまな思考の多様性を理解し、それを組織の力に変えることが成功のカギとなるでしょう。