4000億円の市場を切り拓き「作業着のメーカー」という枠を超えたワークマン。
かなり効率化を徹底したのかと思いきや、経営のキーワードは「しない」ことなんだとか。
今回はワークマンの専務、土屋哲雄氏が書かれた著書
ワークマン式「しない経営」
の内容をもとに、独特の経営戦略で知られるワークマンの成功を深掘りしていきたいと思います。
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「しないこと」の戦略
ワークマンの戦略は「しないこと」。
多くの会社が「もっと多くのことをしよう」と考える中でワークマンは逆の戦略を選びました。
しないと決めることって本当に難しいんですよね。
一般的にビジネスで成功するには「選択と集中」が必要だと言われます。
でも、それすらできる会社って本当に少ないんです。
何かしないと不安だという気持ちから社内のリソースを無視して施策がどんどん増えていき、
どれも中途半端にしか進まず失敗する。
そんな戦略とも言えない方針で進む会社が大多数ではないでしょうか。
しかし、ワークマンは「選択と集中」どころか「しない」という大胆な方針を取りました。
具体的には
- 社員のストレスになることはしない
- 残業しない
- 仕事の期限を設けない
- ノルマと短期目標を設定しない
- ワークマンらしくないことはしない
- 他社と競争しない
- 値引をしない
- デザインを変えない
- 顧客管理をしない
- 取引先を変えない
- 加盟店は、対面販売をしない
- 閉店後にレジを締めない、ノルマもない
- 価値を生まない無駄なことはしない
- 社内行事をしない
- 会議を極力しない
- 経営幹部は極力出社しない
- 幹部は思いつきでアイデアを口にしない
- 目標を定め、ノルマを決め、期限までにやりきるといった多くの企業がやっていることは一切しない。
これだけの「しない」ことを実践しています。
パッと見るだけでも「どうやって実現できてるんだろう」と不思議ではありませんか?
では、この「しないこと」戦略がどのように機能しているのかを具体的に見ていきましょう。
社員の余裕が仕事の質の高さに繋がる
まず、ワークマンは社員のストレスを減らすことに力を入れています。
例えば残業を減らすことで社員が家族や趣味の時間を大切にできるなど。
無理をしないことで質の高い仕事ができるよう配慮されています。
さらに無駄な会議や社内行事を減らすことで仕事に集中できる環境を作っています。
人間、時間に余裕がなくなると「欠乏」という状態になってさらに効率が落ちるというのは
いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学
でも言われている事ですが、
多くの会社は決まった勤務時間の中でより多くの業務をこなしてもらおうとしがちです。
そんな中、社員の余裕という部分に真剣に向き合うのは理にかなっていると感じました。
一貫性を保つ
また、ワークマンは一貫性を大切にしています。
例えば製品のデザインをころころ変えないというのもその一つ。
実際ワークマンに買い物に行くと、去年・一昨年に見た服が同じように陳列されています。
この販売スタイルは本当にありがたいんですよね。
数年前に買った服が気に入ったからまた欲しいと思っても、販売終了している事が普通だと思います。
しかし、ワークマンなら数年前に買った服でもリピートできるという安心感があります。
これが積み重なると信頼にも繋がります。
そして、取引先を頻繁に変えないことも取引先からの安心感や信頼に繋がります。
こうした「変える事をしない」一貫性がワークマンの強みになっているんですね。
徹底した顧客目線
また、ワークマンは価格競争をしません。
この方針を端的に表すのが
値引は「お客様への裏切り行為」だからしない
という言葉。
値引しなくても売れる製品をつくることが基本だ。値引は手間がかかり、一部の顧客だけが得をして不公平だ。
競合店が1980円(税別)の季節製品を期中に1480円(税別)に値下げするなら、はじめから980円(税込)で売る。
こうした考えや、他にも「顧客が値札を見ず安心して買い物ができる」という言葉から、
ワークマンに来る顧客がどのような買い物をしたいのか徹底的に考えられているのが伺えます。
マーケティングと新規事業展開
ワークマンの成功はただの偶然ではありません。
著書の中ではワークマンで行われている様々な合理的手法が紹介されています。
マーケティング戦略は、市場を細かく分けて、それぞれのニーズに合った製品を提供することに焦点を当てています。
同じように、ワークマンは市場ごとに最適な戦略を展開しています。
「ファイブフォース」分析
ワークマンの市場分析においては、マイケル・ポーターの有名な「ファイブフォース」モデルが活用されています。
このモデルは、競争環境を5つの要因(新規参入者の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、既存競争者間の競争)で分析します。
ワークマンはこの分析を通じて、作業服市場における自社の位置を客観的に理解し、強みを活かす戦略を立てています。
これは、サッカーの試合で相手チームの弱点を見つけ出し、自分たちの戦略を立てるようなものです。
粗利益を重視しない
一般的な企業と異なり、ワークマンは高い粗利益率を追求しません。
彼らは、低価格でも品質の高い製品を提供することに焦点を当てています。
これは、スポーツチームが勝利よりもチームワークや技術の向上を重視するようなものです。
製品の価格を下げることで、より多くの人々に製品を手に取ってもらうことができ、結果として顧客基盤を広げることができます。
定価販売の徹底
ワークマンは値引き販売を行わず、すべての製品を定価で販売しています。
これにより、顧客はワークマンの製品がいつでも公平な価格であると信頼できます。
これは、学校で先生がすべての生徒に公平な評価をするようなものです。
公平な評価によって、生徒は安心して学習に集中できます。
同じように、定価販売は顧客に安心感を与え、長期的な信頼関係の構築につながります。
ワークマンのマーケティング戦略と新規事業展開は、市場を正確に理解し、顧客のニーズに応えることに集中することで、その成功を支えています。
これらの戦略は、他のビジネスにとっても有益な学びを提供しています。
インフルエンサーマーケティング
ワークマンは、インフルエンサーやアンバサダーを通じたマーケティング戦略で、製品の魅力を広く伝えています。
これは、口コミのように人々の間で自然に情報が広がる方法です。
現代の情報社会では、消費者は実際の使用者の声を重視する傾向があり、ワークマンはこの点を巧みに利用しています。
アンバサダーの活用
ワークマンでは、アンバサダーを積極的に活用しています。
アンバサダーとは、そのブランドや製品の熱烈なファンで、自らの体験を通じて製品の良さを人々に伝える人たちです。
彼らは実際に製品を使用し、その使用感や機能性をリアルに伝えることで、他の消費者との信頼を築きます。
この方法は、友人がおすすめの商品を教えてくれるようなもので、自然で信頼感のある情報源となります。
アンバサダーと共同開発
ワークマンはアンバサダーと共同で製品開発を行っています。
実際のユーザーである彼らの意見や経験を取り入れることで、市場のニーズにぴったり合った製品を作り出すことができます。
例えば、アウトドア愛好家のアンバサダーが、実際のキャンプでの経験を基に改善点を提案するといった具合です。
これにより、製品はより実用的で魅力的になり、消費者の満足度を高めます。
成果の測定
アンバサダー活動の成果は、アクセス数や再生回数などのデータを通じて厳密に測定されています。このデータ分析により、どのアンバサダーがどのような影響をもたらしているかを明確に把握することができます。
この方法は、スポーツの試合で選手のパフォーマンスをデータで分析するのに似ています。
どの選手がどのように貢献しているかを知ることで、チーム全体の戦略を改善することができます。
同様に、アンバサダー活動の効果を測定することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることが可能になります。
このように、ワークマンはインフルエンサーマーケティングを通じて、製品の魅力をより広く、効果的に伝えることに成功しています。
実際のユーザーの声を活かし、データに基づく戦略的なアプローチによって、ブランドの信頼と認知度を高めているのです。
情報システムの導入
ワークマンでは、情報システムの導入に際して、最初から完璧なシステムを目指すのではなく、実際のビジネスニーズに合わせて段階的にシステムを開発しています。
これは、一つのビルを建てるときに、まず基礎をしっかりと築き、その後徐々に上層部を構築していくようなものです。
基礎がしっかりしていれば、その上に安全で実用的な建物を建てることができます。
最小限のシステムから開始
ワークマンでは、まず最小限の機能を持つシステムからスタートしています。
この初期段階では、必要最低限の機能に焦点を当て、システムの基本的な枠組みを構築します。
その後、ビジネスが進むにつれて、追加の機能や改善が必要になったときに、システムを拡張していきます。
これは、新しいスポーツを学ぶときに、まずは基本的なルールや技術を身につけ、徐々に上級の技術を学んでいくようなものです。
効率的な開発プロセス
完璧を目指す代わりに、実際に使われる機能に焦点を当てることで、ワークマンは無駄を省いた効率的な開発プロセスを実践しています。
このアプローチにより、開発時間とコストを削減し、実際のビジネスのニーズに迅速に対応することができます。
これは、学校の授業で必要な知識だけを集中して学び、余分な情報を省くことで効率的に学習するようなものです。
試験と改善の繰り返し
システム開発においては、動作試験と改善を重ねることが重要です。
ワークマンでは、システムを段階的にテストし、問題点や改善点を見つけたら、それを修正していきます。このプロセスは、実用的で効率的なシステムを構築する上で不可欠です。
これは、料理を作るときに、味見をしながら必要に応じて味を調整するようなものです。
試験と改善の繰り返しにより、最終的には使いやすく効果的なシステムが完成します。
このように、ワークマンの情報システム導入戦略は、実際のビジネスニーズに合わせて柔軟に対応し、段階的な開発を通じて効率性と実用性を高めています。
このアプローチは、他のビジネスにとっても有用な手法であり、テクノロジー導入の際の重要な参考点となり得ます。
ワークマンから学んだ教訓の日常への応用
ワークマンの事例から学んだことは、私の日常生活やビジネスのアプローチにおいて多大な影響を与えています。
特に印象深いのは、彼らの「しないこと」を戦略的に選択するアプローチです。これを私の日常や職場でどのように活かすかを考えると、以下のような点が挙げられます。
「しないこと」を選ぶ重要性
ワークマンの成功の秘訣の一つは、「しないこと」を選ぶ勇気にあります。
これは、私たちの日常生活や職場でも非常に重要な教訓です。毎日の生活の中で、無駄な時間を削減し、本当に重要なことに集中することで、効率と生産性を高めることができます。
例えば、無意味な会議や情報過多による混乱から距離を置き、必要な情報に集中することで、より質の高い仕事ができるようになります。
マーケティングの焦点
ワークマンのマーケティング戦略は、ターゲット市場を明確にし、そのニーズに合わせた製品を提供することにあります。
この学びを私のビジネスに活かすと、顧客の実際の要望を理解し、それに応える製品やサービスを提供することが重要です。
これは、顧客の期待を超えるサービスを提供することにもつながり、結果として顧客満足度の向上に貢献します。
インフルエンサーマーケティングの活用
ワークマンが行うインフルエンサーとの協力は、実際のユーザーの声を大切にすることの重要性を示しています。
これを私のビジネスに応用すると、顧客のフィードバックを直接取り入れ、製品開発に活かすことの重要性がわかります。
実際のユーザーの意見や体験談を共有することで、他の顧客との信頼関係を築くことができるでしょう。
ワークマンの事例は、ビジネスだけでなく、日常生活においても多くの示唆を与えてくれます。
彼らの成功から学んだ教訓を活かして、より効率的で成果を出す方法を日々の生活に取り入れていきたいと思います。
まとめ
ワークマンの成功の背景には、戦略的に「しないこと」を選ぶことと、市場のニーズに合わせた製品を提供することがあります。
著者によると、この独特なアプローチは、ビジネスの世界で成功を収めるための重要なヒントを私たちに提供しています。
戦略的な選択と顧客に対する誠実な姿勢が、成功への鍵となるのです。
しかし、ここで紹介した内容は氷山の一角に過ぎません。
ワークマンの成功の秘密をより深く理解するためには、是非本書を手に取って、詳細をご自身で読み進めてみてください。
そこには、ビジネスパーソンにとっての貴重な学びが詰まっています。
思い切って「しない」と決めてしまう決断力に驚きですね。